網膜視細胞の中でも特に杆体が進行性に変性する疾患の総称で、視細胞関連蛋白の突然変異が原因です。一般に網膜色素変性(RP)は、多くが20歳代までに夜盲、求心性視野狭窄等が発症し、視力低下も徐々に進行します。
効果的な治療方法はなく、眼科では経過観察とされるケースが多いです。
白内障、緑内障、黄斑浮腫等の合併が多く、網膜への色素沈着、視神経の萎縮、網膜動脈の狭窄もみられます。
小児期に夜盲症とされたものが、検査機器等の進歩により10歳未満から診断が付く場合もあります。
また進行の程度には大きな個人差があり、中年以降に急激に進むケースもあります。
最近開発された網膜の断面を診ることのできるOCT(光干渉断層計)によって、網膜色素変性の新しい病態が明らかになっています。
特に従来の眼底写真では分からなかった小型の嚢胞様黄斑浮腫(CME)は十代から発症がみられ、加齢と共に大型化して変視(視界の歪み)を生じ視力を低下させるケースが少なくありません。
眼科で処方されることのあるプロスタグランジン関連薬は、CMEを発症・悪化させる場合があります。
網膜色素変性は視神経の萎縮や網膜上の血管が徐々に細くなり閉塞していくこと等から、変性の進行に伴い徐々に網膜が機能不全となり、最終的には網膜の細胞が死滅して視機能が失われていく疾患です。
しかし網膜の細胞が死に至るまでには、これまで考えられているよりも長い時間がかかり、視野検査で失われていると思われた視野欠損部の細胞は機能不全を起こしているに過ぎない場合も多く、適切な治療により網膜の血流を確保することで、ある程度まで回復できる可能性があります。
網膜変性が完了し完全に死に至った部分の細胞は再生することはありませんが、進行する前にできるだけ早く治療を行うことで、機能不全部の回復と共に進行を大幅に遅らせることが可能になると考えられます。
当院の針治療では、特に局所(眼底を含んだ目周囲)の血流改善を目的に治療に取り組んでおり、実際の臨床結果から以下のように推測を立てています。
(特定経穴への鍼刺激による眼底血流量の改善は、全日本鍼灸学会で報告されています。)
網膜色素変性症については疾患の進行により、網膜部位で
①大部分の変性が完了した部分(変性完了部位) ←完全な変性で回復の可能性は無い部分です。
②変性が現在進行している部分(機能不全部位) ←針治療により回復する可能性ありと考えます。
③変性を起こしていない部分(健全部位) ←健全になり、視力・視野の改善に役立つと考えます。
が、症状の個人差に合わせて、同時に連続的に存在していると考えられます。
適切な針治療により頭頚部や眼周囲の血流を改善し、眼底の血流にも影響を及ぼすことで、視細胞(杆体細胞)や視神経が活性化して、視力や視野に関しては主に②、③の部位の状態は改善すると考えられます。
実際の臨床例として治療を始めると視力については向上し、視野に関しては一定度までの改善後、足踏み状態となる症例が多く、この時期からは針治療の目的を状態の維持へと切り替えていきます。